10月 4th, 2014

Let it go

昨年から話題になっているディズニー映画「アナと雪の女王」のテーマソングの題名は「Let it go」で、和訳は「ありのままで」となっている。この映画に合ったすばらしい訳だと思う。一方で、同じ「Let it go」でもこんな使い方がある。

Let it go

(忘れないと)

今季レンジャーズでセンターを守ったのは、キューバ出身のレオネス・マルティン選手だった。昨年はまだレギュラーの座を獲得できず、左打ちということもあって、相手の先発ピッチャーが右腕の時のみスタメンに入っていた。しかし、堅実な守備が高く評価され、今季は持ち前のスピードを生かした活躍もした。

2009年のWBCを見ていたファンは、彼の名前を覚えているかもしれない。キューバ代表チームに控えの外野手として参加していた。日本代表とも対戦している。翌年、世界ジュニア野球選手権で台湾遠征中に亡命を決意し、台湾から日本、日本からメキシコへ渡った。22歳だった。

Martin

(写真:レオネス・マルティン選手)

悲劇はこのメキシコで起こった。莫大なお金が動くメジャーに目をつけた、あるエージェントもどきのグループがマルティン選手を拉致。もしメジャーのチームと契約した場合、契約金の30%を彼等に渡すという不当な条件を突き付けたが、身の危険を感じたマルティン選手はやむを得なく条件を呑んだ。そして2011年、マルティン選手はレンジャーズと5年150万ドルという契約を結び、念願のアメリカ入国を果たした。

先進国で育った私には、母国から亡命する人の心情は一生分からないだろう。例えれば、幕末に脱藩した浪人のようなものだろうか。共産国のキューバでは、プロ野球選手が月$40(約4千円)しか稼げないという苦しい経済状況だが、生まれ育った故郷を離れるという行為は並大抵のことではない。しかし、マルティン選手はいつも明るく振る舞っている。これもラテンの血だろうか。

昨オフに、メキシコで起こった拉致事件のことがニュースになった。マルティン選手には忘れたい過去だろうが、もちろん記者は容赦なく当時のことについて質問する。質問を受けた彼はこう答えた。

You have to let it go.

「(過去のことは)忘れないと」。そう言った目から、いつもの明るさは消えていた。26歳にしては重すぎる過去を背負っている男の目だった。この一言の後、記者達は何も聞けなくなってしまった。

この言葉ほど今シーズンのレンジャーズに当てはまるものはない。シーズン全体を振り返ると……。正直なところ、あまり振り返りたくないのが事実だ。けが人が続出し、リーグ最下位に終ったレンジャーズ。こんなシーズンは早く忘れたいものだ。そんな場合には、次のように使う。

We have to let this one go and start afresh next year.

「このシーズンを忘れ、来シーズンを迎えよう」。

悪いことばかりではなかった。シーズン終了前の2週間に見せた反撃、特に若手の活躍から来季につながる希望がうかがえた。オドール選手、スモリンスキー選手、ルア選手等、メジャー初年度とは思えない程落ち着いており、これからの期待が高まる。