7月 2014

Players Win Games, But Teams Win Championships

選手が勝ち取る一勝、チームで勝ち取る優勝

 

 

明日、ニューヨーク州、クーパーズタウンで野球殿堂の表彰式が行われる。人口1800人の街に、今年はなんと4万人がセレモニーのために来訪するという。殿堂入りするメンバーを見れば、それも納得がいく。選手では、ホワイトソックスの元主砲フランク・トーマス氏、ブレーブス黄金時代を支えた二人の元先発投手トム・グラビン氏とグレッグ・マダックス氏。監督では、ブレーブスの黄金時代を築いたボビー・コックス氏、アスレチックスやカージナルスでチームをワールドチャンピオンに導いたトニー・ラルーサ氏、そして常勝ヤンキースのブランドを作りあげたジョー・トーリ氏だ。

 

私がこの仕事をドジャースで始めた時、監督はトーリ氏だった。2008年、フロリダ州ベロビーチで最後の春のキャンプを迎えたドジャース。そこでの年頭の挨拶でトーリ氏は、こんな言葉を選手達に伝えた。

 

Players Win Games, But Teams Win Championships.

 

訳は上記の通りだ。試合は個々の選手の活躍で勝ち負けが決まることが多い。ヒット一本、ホームラン一本で決まる試合もたくさんある。投手が圧倒的なピッチングをし、チームに白星をもたらすこともある。しかし、長いシーズンを考えれば、「優勝」という最終ゴールにたどり着くにはチーム全体の貢献がない限り不可能だ、ということだ。

 

12年間ヤンキースの監督を務め、そのうち地区優勝を10回も果たした。6回ワールドシリーズで戦い、頂点に達したのは4回。そんな履歴を持つ監督がいう言葉は一つ一つに重みがあり、説得力があった。若手が多かったドジャースの選手達は監督の言葉を信じ、その年も翌年も地区優勝を果たした。

 

監督として名を揚げたため、現役時代の活躍が影を潜めてしまったが、60年代から70年代にかけて18年間プレーし、その半分の9回もオールスターに選出されている。1971年には最優秀選手賞も獲得しているほどだ。その年は打率.363という驚異的な数字を残している。この写真をご覧の通り、日米野球にも参加した。

 

Oh_Torre

 

一つ、トーリ氏に関する逸話を紹介したい。3年間ドジャースで一緒に仕事をさせていただいたが、数知れない会話は興味深く楽しかった。ある日、試合前の練習中にベンチで二人だけになった時のことだ。

 

「監督、今、このチームに将来監督になると思う選手はいますか?」と聞いてみた。少しフィールドを見回し、二人の名前を挙げた。そのうちの一人は、今年からタイガースの監督に就任したブラッド・オースマス氏だ。もう一人はまだ現役を続けている。もしその選手が将来監督になったら、トーリ氏の先見の明に脱帽する。

 

ほんの少しの期間だが、一緒に仕事ができたことは光栄である。野球殿堂入りを心から祝福したいと思う。

 

 

 

 

 

 

El Caballo

男の中の男

 

 

今回のブログでは、スペイン語の言葉を一つ紹介したいと思う。「Caballo(カバーヨ)」とはスペイン語で「馬」という意味だ。クラブハウスでラテン選手同士が挨拶を交わす時、

 

¡Hola, caballo!

 

とよく言う。直訳は「こんにちは、馬」となる。実はスペイン語の中で使う「馬」とは、男性が他の男性に対する敬意を表した言葉なのだ。特にメジャーの中で使われる「カバーヨ」は、皆からリスペクトされる選手を指す。長いイニングを投げる先発投手、ピンチをしのぐ中継ぎ投手、チャンスに強い打者、そして決定的なのはその選手の人間性だ。いくら素晴らしい選手でも人間的に尊敬されていなかったら、カバーヨのタイトルは獲得できない。

また、「馬力」がパワーを示すように、「馬」という言葉は「力」を連想させるため、パワーヒッターを指すこともある。他にも、「馬」は長時間走れることから、スタミナや持久力のある選手を表す時にも使う。英語では「stud」=「種馬」が同じような意味で使われる(もちろん女性から人気のある男性もだが)。

 

人から信用され、人望の高い人は

 

Es un caballo

あいつは男だ

 

と言われる。他にも、上品で教養のある「紳士」は、英語では「gentleman(ジェントルマン)」だが、スペイン語では「caballero(カバイェーロ)」と言い、馬を操る「騎士」に由来する。「馬」という動物は、優雅さの象徴でもある。

 

先日、オールスターにダルビッシュ選手の通訳として参加させていただいた。20年間ヤンキースのスター選手として活躍し、今年引退するジーター選手のために開かれた球宴のようであり、それはクラブハウス内でも同じだった。オールスターに選ばれた選手の中でもジーター選手は別格で、オールスター選手たちがジーター選手にサインや写真を求めていたほどだ。どんな要望にも笑顔で応えるジーター選手を見て、ラテン選手たちは尊敬のまなざしを向けながら

 

Es el caballo

あいつは男(の中の男)だ

 

と言った。少し文法の話になって申し訳ないが、スペイン語で「un」は不定冠詞、「el」は定冠詞。つまり英語でいう「the」に当たる。ジーターは「ザ・男」と最高の敬意を表されたことになる。素晴らしい選手で、男気があり、そして優しい。ジーター選手は男女を問わず慕われる真のエル・カバーヨだった。

 

Beltre & Jeter

(レンジャーズのボス・ベルトレ選手とヤンキースのキャプテン・ジーター選手)

 

 

Team Chemistry

チームの和

 

 

「和」という言葉は訳すのが難しい。日米野球の相違を描いたロバート・ホワイティングの著書に「和を持って日本をなす」がある。著書名の英訳は「You gotta have WA」で、「和」は訳さず、ローマ字で「WA」と書かれている。しかし、野球で使われる「チームの和」に一番近い言葉は

 

chemistry

 

もしくは、 

 

team chemistry

 

ではないか。もちろん「化学」という意味だ。複数の物質を混ぜ合わせると、化学反応で融合していく様から派生して、「相性」「親和」という意味が生まれたのかもしれない。簡単に、「調和がとれている」と考えれば分かりやすい。

 

You gotta have WA

(ロバート・ホワイティング著「和を持って日本をなす」の英語版)

 

クラブハウスで長年働いているスタッフに問いかけたことがある。チームの和とはどうやって出来上がるものか、と。ベテランの活躍や、粋のいい若手の存在が必要なのか。ましてや人種が様々なメジャーで、「和」というものはどう出来上がるのか興味があった。しかしそのスタッフはこう答えた。

 

「Winning makes chemistry」

(勝ち続ければ、チームの和は勝手にできるよ)

 

言葉や文化の相違、多様性がどのチームにも存在するメジャーの世界。「和」というものは色々な要素によって出来あがるが、一番手っ取り早いのはこのスタッフが言うように沢山の白星かもしれない。

 

ちなみに、この言葉は恋愛関係や仕事の人間関係でも「相性」や

「馬が合う」として使われる。例えば:

 

She (he) seemed nice but there was no chemistry.

彼女(彼)は良さそうな人だったが、相性が合わなかった。

 

There was chemistry with my colleagues from the beginning. I knew it was going to work.

最初から同僚達と馬が合い、良い仕事関係が築けると思った。

 

 

Turn the page

気持ちを切り替える

 

 

試合中、選手がリセットボタンを押さなければならない状況は何度もある。そんな時、選手はこんなフレーズを使う。

 

You have to turn the page.

 

直訳すると「ページをめくらなくてはならない」、意訳すると「気持ちを切り換えなければならない」になる。過去の出来事に執着していては何も始まらないということだ。 打者の場合、4打数無安打の試合を後悔しても、翌日には新しい試合が待っている。ピッチャーの場合、ホームランを打たれて悔やんでいても次の打者がすでにバッターボックスの中に入っている。もちろん、私が担当するダルビッシュ投手も試合後の記者会見でこの言葉を使うことがあるが、訳す際に上記の英訳をよく使う。

 

この言葉は試合中だけでなく、野球人生の中でも言えるだろう。先日、トロント戦で相手のピッチャーはディッキー投手だった。周知の通り、彼はナックルボーラーだ。ナックル(限りなくボールの回転を抑えて不規則に変化しながら落ちる変化球)を投げる投手は、100年以上あるメジャー史を通しても25人ほどしかいない。近年ではボストン・レッドソックスにいたウェークフィールド投手の印象が強い。そして、2012年ナックルボーラーとして史上初めてサイ・ヤング賞を獲得した、このディッキー投手だ。なぜナックルボーラーが稀かと言えば、この球種を持続して投げる技術が非常に難しいのが理由の一つに挙げられる。

 

43 R.A. DICKEY pen

 

もう一つの理由は、ナックルボール投手になるためにメジャーを目指しているピッチャーは皆無に近いからだ。投手としてメジャーで通用しなかった選手が野手に変わるケースはよくある。しかし、同じ投手として、それもナックルボーラーに転向してメジャーに残るのは至難の技だ。ディッキー投手の自伝「Wherever I Wind Up」を読んだ人は納得してくれると思う。あまり知られていない事実だが、彼は1996年テキサス・レンジャーズにドラフト一位で選ばれた選手だ。生まれつき右ひじの靭帯が一つないという異例な症状を克服し、メジャーでも投げていた。が限度があった。 引退、つまり「本を閉じる」ことも考えたが彼は思いきって「ページをめくる」決断をした。体力的にもメンタル的にも苦闘を続けた結果、2012年にナックルボーラーとして前代未聞の快挙を成し遂げた。

 

気持ちを切り替えるというのは安易なことではない。それを毎日のように成し遂げるメジャーの選手は、プロ中のプロと言える。

 

DickeyTEX

(レンジャーズ時代のディッキー投手)

You bent but didn’t snap!

お前は最後まで崩れなかった

 

 

レンジャーズのピッチングコーチはマイク・マダックス氏。彼の弟グレッグ・マダックス氏は、今年野球殿堂に入ることが決まった。私は運よく、彼の現役最後の年に2ヶ月程ロサンゼルス・ドジャースで一緒に働くことができた。

 

2008年8月の半ばに、ドジャースにトレードで入団したマダックス氏は当時42歳だった。ブレーブス時代、4年間連続でサイ・ヤング賞を獲得した実績の持ち主で、カーショー投手を含むその当時の若手投手にとって雲の上の存在だった。そして彼のアドバイスはいつもポジティブ思考だったことを思い出す。

 

ある試合で若手投手が降板し、マダックス氏がいたビデオ室に入ってきた。内容が悪く6回3点で降板を告げられ、若手は肩を落とし無言だった。6回3失点と言えば「クオリティースタート*」と言える。内容がどうであれ、マダックス氏は若手を励ました。

 

「You bent but didn’t snap」

 

「曲がったが、折れなかった」が直訳になる。台風の日、雨に降られ、風に吹かれながらも折れずに耐える木の枝を想像してもらいたい。マダックス氏は「ランナーも出し、点も取られたが、しっかりとゲームを作った」と若手を讃えた。

 

マダックス氏は現在テキサス・レンジャーズのスペシャル・アシスタントを務めている。春のキャンプで、ダルビッシュ投手を含む若手投手が、彼から貴重なアドバイスを受けていたのをよく目にした。時々通訳をかってでるが、彼のポジティブ思考は未だに現役のままだ。

*クオリティースタート:先発投手が6回以上を投げて自責点3以下に抑えた登板

 

写真:春のキャンプで若手を指導するグレッグ・マダックス氏

 

 

Ducks On The Pond

満塁

 

 

メジャー選手のオフシーズンの過ごし方は様々だ。若手は南米の冬季リーグでプレイする事が多いが、メジャーに定着している選手は骨休みにバハマ諸島やハワイへバケーションに行く。その他、色々な趣味を堪能するのもオフの醍醐味だ。ゴルフや釣りもあげられるが中西部、特に田舎に住む選手達はハンティングを楽しむ。レンジャーズの選手では、元広島カープのルイス投手、モアランド一塁手、ロス投手等がハンティングの話をクラブハウスでしているのをよく耳にする。

 

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(写真:コルビー・ルイス選手)

 

野球関係者の中にハンティングを趣味にしている人が多いからか定かではないが、メジャーの解説を聞いているとハンティングに関連した言い回しが使われている。昨夜聞いた例を紹介したい。

 

「Ducks on the pond」

 

「池の中にカモが沢山いる」が直訳だが、この場合「カモ」は「ランナー」の例え。つまり満塁の状況を表す。ハンティングの中でもカモは人気の鳥で、池に浮いているカモの群れとベース上にいるランナーをかけたものだ。例えば、「ノーアウト満塁、絶好のチャンスです!」というのは「Ducks on the pond with no outs. What a great opportunity!」となる。

 

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(写真:ミッチ・モアランド選手)

「Sitting duck」というのも聞いた事がある。直訳は「座っているカモ」になるが無防備の状態を表す。カモ猟で池に「座って」いるカモは完全無防備でハンターにとって格好の的だ。野球の場合、ボーッとしていた一塁走者がピッチャーからの牽制でタッチアウトされる時に使われる。刺されアウトになった走者は「dead duck」(死んだカモ)と呼ばれる。